その日、私はハッキリと目撃した。
私の隣で 夫が今まさに死んでいく、その様を。
その日はいつもと変わらない朝だった。
私は、泊りがけの出張から帰宅した翌日で、次の日から二人して有休を取り
大阪に飲んだくれ&食い倒れの旅に出る、ワクワクが最高潮に至る旅行の前日だった。
突然、大阪に旅行に行きたいと言い出したのは夫だった。
毎晩見ているYoutubeで、たまたま目にした大阪旅行記が気に入ったのだろう、
これまでにないスピードで旅行を計画し宿を取った。
今思うと、夫はこうして”その日”私が家にいるように仕向けていたようにさえ思う。
翌日は始発の新幹線に乗って、大阪に行く予定でいた。
朝一から空いている飲み屋に乗り込む算段はもうついていて、朝から晩まではしご酒。
気絶寸前の状態で宿に倒れこむ、そんなしょうもない旅行なのだ。
普段、決して私たちはのん兵衛ではないのだが、
その時の私たちの憧れは”はしご酒するのん兵衛”だった。
なんちゅうアウトロー。昼間から大量のアルコールを摂取しご機嫌に街を練り歩く
その様は、自由の象徴のようで、我々夫婦には輝いて見えたのだ。
(ちなみに、私の新入社員からの夢は、水筒にアルコールを詰め込んで、お酒を飲みながらしれっとした顔で会社で仕事をすることだ)
そんなわけで、翌日は朝が早いこともあり、その日は早く寝ることにした。
私は前日の出張疲れもあり、21時には布団に入った。
私は昼食を食べすぎたせいで腹も減らず、いつもは一緒に囲む食卓も、
その日は夫一人で少し寂しそうにラーメンを食べていた。
ぼんやりとした記憶で 22時頃、夫が隣のベッドに入る気配を感じた。
次に目が覚めたのは23時ちょっと前。
夫の方から「ふがふが」と鼻詰まりを自分の鼻息で解消しようと強く息を
しているような音が聞こえてきた。
普段、鼻息をふがふがさせることはしないのだが「変なことしとるのう」と、
私はのんきにまた眠ろうとしていた。
まさか、夫が死にかけているとも知らず。