【自己紹介シリーズ】夫が突然倒れました その日⑥

夫はベッドで斜め仰向け、私は心臓マッサージ初心者(知識はテレビ仕込み)という絶望的な状況で心臓マッサージは行われた。
2~3分経った頃だろうか、電話口から「速度が落ちています、もっと早くしてください」と喝が飛ぶ。

私は心臓マッサージを舐めていた。

1秒間に1回あばら骨が折れる勢いで腕を振り下ろし続けるって、とんでなくハードなのだ。

それでも、この手を止めたら夫は蘇らない。本当に死んでしまう。

止められない、でも、もう腕が動かすのが辛いのだ。
電話口の救急隊に弱音を吐く「もう腕が上がりません…限界です…」
救急隊の励ましは続く「その手を止めたら、夫さんは戻ってきません、救急車がもうすぐ到着します。サイレンの音が聞こえませんか?あなたのおうちに向かっています!頑張って!」

そういわれて、救急車のサイレンが近づいてくることに気が付いた。

私はこれまでの人生で、これほどまでに救急車のサイレンの音に安堵したことはない。
白馬に乗った騎士や、救世主の誕生時に流れる 見たこともないような希望を携えた、すべての民に勇気を与えるミュージック。

また私の腕に、肩に、力が戻ってきた…!

ということはなく、相変わらず疲労困憊の痺れた腕で、半狂乱になりながらとにかく「1,2,1,2」と永遠に夫の胸を押し続けた。