【自己紹介シリーズ】夫が突然倒れました その日⑪

病院を去る前に、夫に会わせて貰えた。

このとき義母は、本当に覚悟しなければならない状況なんだと悟ったと、後から聞いた。
コロナ渦の病院内で患者と会えるのは、この機会を逃したらもう会えないような重体な時だけだと知っていたからだ。
義母も震えていた。

ICUの病室は、ドラマで観たそれと同じだった。
ピッピッと電子音が一定のリズムでなり続け、夫の体には色々な計器のコードが貼りついていた。
いつの間にそうなったのか、夫の顔は安らかで、健やかに眠っているように見えた。
手を握ると温かく、夫は死の淵から生還したのだと感じた。
まるで生きている証拠を見つけたような、素晴らしい発見をしたと思った私は、義母と義父に「手が温かいです!」と伝えたが、二人の表情が晴れることはなかった。
このタイミングで初めて、倒れた後の夫と対面したご両親は、ICUで配線と管にまみれた息子の姿に、愕然としていたのだ。

「夫よ、大阪に行くよ!」

計画通りにしたがりな夫は、きっとこの言葉に反応すると思い、そう声をかけた。

すると、夫の手がガッツポーズをするように大きく動いた。

きっと目を覚ます。
絶望だらけの中、光が差した一瞬だった。